年間読書数55冊!映画、ドラマ感想文:2023年版

ほとんどがノンフィクションですが、今まで読んだ読書の感想文一覧をできるだけ多くまとめています。読んだ後で「どんな本だっけ」と思うととても悲しくなるので、こうしてまとめてさっと内容を思い出せるようになればいいなと。本が気になっている方にも買うかどうかの参考になれば幸いです。

本棚

スポンサードリンク

小説

無敵の夜の犬(小泉 綾子)

第60回文藝賞受賞の小説。幼少期に指を切断してしまったことで周りから後ろ指さされ差別心を内面化し育った主人公には祖母がいるが自己紹介に親の姿が描かれておらず、自他共に認める屈折した不良少年。そんな彼が憧れる橘(たちばな)という高校生との暴力的で危険な付き合い、同級生女子との駆け引き、を超えて、カルト宗教とぶつかって砕ける様を描いている。短くて読みやすくスリリングで、柳美里のや、「火花」を思い出しすリアルな描写(柳はスーパーリアルだが)。屈折し腐ってしまった主人公の感情や要因となった環境を色々想像できる。どこにも繋がれてない自由な獣、「あすなろ」的だが何かが足らない、まさに野良犬だなと。

嘘つきアーニャの真っ赤な真実 (角川文庫)

  1. 一章:ギリシャ友人編(リッツァ)
  2. 二章:ルーマニア友人編(アーニャ)
  3. 三章:ユーゴ友人編(ヤスニンカ)

旧ソ連で家族と暮らした執者・米原万里の自伝小説。チャウセスク政権が崩壊したルーマニア情勢を背景に、ソ連、ギリシャ、ユーゴスラビア、など東欧やバルカン諸国の複雑な国際情勢とソビエト連邦崩壊の影響を受ける人々とその裏にある葛藤や真実を、現地に詳しい筆者による詳細な出来事でリアルに描かれている。

君たちはどう生きるか

ジブリのアニメ映画「君たちはどう生きるか」の中盤で主人公が触れていて、これは読まないと映画の理解が進まないと思い、買って読みました(中学高校時代に読んだ経験があるような気がしたが勘違いかも)。50年前の本とは思えないほど面白く、所々で泣いてしまいます。こんないい本を少年時代にちゃんと読んでおけばもっといい大人になっていたかもしれなません。スタジオジブリの同名アニメ「君たちはどう生きるか」映画についてはこちらの感想文をご覧ください。

コンビニ人間

ゾッとする表現や生々しい現代人の生活様式が我ごとながら興味深くとても面白い。前半は静かに進むが、後半は音を立てて進んでいき目が離せない。最後の結末も気に入っている。

三体

優れたSF小説に送られる「ヒューゴ賞」を受賞したことで有名な中国のSF小説。ミステリーの要素とSFが重なってとても映画向きな話。2024年初頭ごろにNetflixで配信が決まっている。全く先が読めない展開でとても面白かった。映像化されたら「陣列コンピュータ」「素粒子多面体のエラー」がどのように表現されるかとても楽しみ。

小説よりもノンフィクション本のが好きなので、こちらの方が多いです。食糧・環境問題、世界史、量子論・宇宙論が中心でジャンルに一貫性がないが、興味が湧いたものは次々と読む。

食料問題

本当に役立つ栄養学

世の中に蔓延する食や栄養に関する疑似科学、似非栄養食品、といったいわゆるフードファディズムを批判的に捉え、化学的で客観的な立場から栄養について解説するブルーバックスらしい本。栄養食品やサプリメントにはほぼ懐疑的な内容で、とにかくできるだけ多くの種類の食品をバランスよく均等に食べることこそ、体の利益になり良い栄養となる、という主張。添加物に対しては、食品に寄生するウイルスや微生物の繁殖、悪い物質の増殖よりはマシであるとする。

欧米人とはこんなに違った日本人の「体質」

とても細かく、世界のエビデンスを背景に健康に良くない食材と、健康によい食材を紹介してくれる内容。特に加工肉は食べたくなくなった。結局日本人やアジア人は、日本人やアジア人らしい、自分の土地や文化にあった食べ物を食べ習慣化することが一番健康に良く、欧米型食習慣が一番健康に悪いことが統計ではっきりする。結局、魚と納豆と味噌汁を使った和食がいいということ

特にこの本で注目したいのは第3章「糖尿病」からの内容で、それにつづく高血圧、胃がん、大腸癌、乳がん等、死亡率が高い病気と食べ物との関連を統計に基づいて細かく解説されている。まとめると以下の食物を中心に摂取し、避けるべき食べ物を認識しておくことが重要と考える。

発がん性や動脈硬化になりずらい食べ物

  • (サバ、アジ等、背中が青い魚)
  • 大豆(納豆、味噌汁、など)
  • 繊維野菜(キャベツ、にんじん、ほうれんそう、大豆、わかめ、らっきょ、人参、じゃがいも、アボガド、エノキ、ブロッコリー、山芋、玄米、など)

避けるべき食べ物や習慣

  • 加工肉(ハム、ソーセージ、など)
  • たばこ
  • 飽和脂肪酸系の肉類(豚肉、牛肉、羊、山羊、馬など)

食品の裏側(安部司)、食品の裏側2

調味料、お菓子、即席ラーメン、加工肉、ファストフード、マーガリン、赤い着色料、マーガリン、全部食べれなくなってしまったトラウマ級の内部告発本。

体を壊す10大食品添加物

ベストセラーになった「買ってはいけない」の著者による添加物解説本。前述の「食品の裏側」と重複した内容もあるが、商品名がはっきり表記されより詳しい事例が紹介されている。

ルポ 食が壊れる 私たちは何を食べさせられるのか?

世界で最初に植えるのは日本 色の安全保障をどう守るか

SNSも活発で自国の食糧生産をすすめ自給自足できる国づくりを強く主張しておられる東大教授・鈴木宣弘の本。アメリカに有利な食糧・農業政策ばかりが政治で推し進められている経緯とその背景にある日本の受動的な外交姿勢が浮かびあがり、日本の自主・自立をしなければますます他国の利益優先となってしまう、と訴える内容。安いから買う、行動への警告もあり、地産地消を薦め考えさせられる。

料理

もうレシピ本はいらない 人生を救う最強の食卓

料理専門家ではない普通の主婦による料理の考え方や哲学、生き方、考え方、などの随筆が綴られている本。レシピ通りの方法に縛られず、材料も切り方も調理法も自由な考えで料理することで解放感のある幸せな感覚を味わおうというもの。「美味しいもの」に執着し、そこにこだわりすぎるのは健康、幸せ、充実感とは離れていくという感覚は自分も感じていた。なのでこの本はとても共感する言葉が多い。特に興味深かったのは炊飯の章で「お鍋にお米を入れ、指の第一関節分のお水に浸したら蓋を開けたまま火をつけ、米の高さまで蒸発したら蓋をして10分弱火、その後は10分蒸らせ」といった内容。これで、炊飯器を使わず普通の鍋で、自分1人一人前のご飯を炊けることを初めて知った。著者もこの炊飯レシピで、ひととおりのサバイバルできると満足げで、その充実感が自分にもよくわかる。著者はアフロ髪が有名な稲垣えみ子さんで、元朝日新聞記者、現在は週刊アエラ等に執筆のフリージャーナリスト。

ソース焼きそばの謎

今ではソースで食べられている焼きそばだが、かつては醤油ベースのウスターソースが主流だった。小麦粉が高価だった戦前から中国の中華麺で浅草を中心に誕生したが、戦後作りすぎて価格暴落した米国産小麦粉を大量に買わされた日本で安価に流通し浅草を中心に、安価なソースとキャベツで大流行した。造船所からでた鉄板を利用したお好み焼きも神戸を中心に広がり、粉もんの2大代表になっていく。現在、喫茶店に多く広がっているイタリアンスパゲティーは、かつては焼きそばのサブメニューで、イタリア五輪が開催された1960年を記念して広がったのではないかと推測する。日本のストリートフードの歴史を筆者が集めた広い文献と推測で考察した資料的価値の高い本。戦後の焼きそばには、現在使用が禁止されている人工甘味料が使われていて、火を通すと苦くなる成分だったので、焼いた後で「後かけ」していた、という話などとても興味深い裏話がたくさん。浅草の「電気屋ホール」や中華麺の元祖「中華楼」、今はなき「花屋」などの老舗も詳しく紹介されている。

若杉ばあちゃんの台所〜こうして作れば医者はいらない

食物に「陰と陽」があるという独自の解釈には違和感はあるものの、添加物やジャンクフードなどの現代食を避け自然食をすすめる姿勢には賛成できる。家庭にある素朴なおかず類のレシピを多数あげている。

砂糖の歴史

砂糖がハイチなどの主に南アフリカの大農園で奴隷労働者によって大量生産され、世界に広がり、日本は植民地化した台湾を農園化し生産した、といった奴隷労働と砂糖貿易の歴史を扱った書物。なので、砂糖精製については触れられていない点に注意。紅茶文化が盛んだった英国では同じ砂糖入り紅茶でも富裕層はアフタヌーンティーの趣味として楽しみ、貧困層は栄養補給として摂取していたという違いが解説され興味深い。砂糖は高価で薬としても利用されていたので、現代のようにパンにジャムを塗る以前は蜂蜜を使用していたという。日本ではかつて、沖縄での黒糖生産や四国でサトウキビが栽培されていたが現在、ほとんど外国産の輸入に頼っており国内に大農園はない。

葡萄酒の戦略

ギルガメッシュ叙事詩の記述から始まるワインの歴史や、パリスの審判、ロバート・モンダヴィ社のフランス進出失敗や親族経営の断念。さらに酵母菌の発見やアルコール分解の科学的解明の歴史にも触れ、なワインの教養が詰まっていて、一通りのワイン知識が身に付く良書。ワインの飲み方開け方、保存の仕方など実用的な知識は後述の「ワインの科学」が詳しいのでそちらへ。

ワインの科学 – 「私のワイン」さがしかた

スクリューキャップとコルクの違い、デキャンタの有効性、抜栓の意義、などワインに関する様々な固定観念や噂に科学的な答えを導き出したり、ワインの科学的な生成工程の詳細、生成成分についての説明など、とても専門的な解説書。

食べ物から学ぶ世界史 : 人も自然も壊さない経済とは

学問

民俗学

遠野物語

小学生の教科書にも掲載されている「遠野物語」。この年になってこんなに心動かされる内容だとは思わなかった。1910年、大日本帝国下の農政官僚であり民俗学研究家であった柳田國男による、国内初の民俗学本と呼ばれている本。岩手県の遠野市に残る昔話119編を一冊にまとめたもので、座敷童や雪女、河童、神隠し、などの日本の怖い昔話が一つに詰まった内容だ。実際に起こった殺人事件や事実かフィクションが区別がつかない話が混ざっていて、この時代の雰囲気が当時の古文体で描写されていて実に現実味がある。この感覚を作家・三島由紀夫は「魔的の強さ」と呼んでたそうだ。忙しくて本書が読めない方は下のYoutube動画がよくその魔的感を表現しているので見てほしい。ジブリアニメの「千と千尋の神隠し」や「もののけ姫」の題材になった要素も感じてとても興味深く読むことができた。間違いなく宮崎駿も読んでいるだろう。そして、もう一つ興味を引いたのは岩手など東北一体に残るアイヌ語を語源とする地名や人名が多いこと。この点も柳田は着目していたようで、この地に残る伝承がアイヌの影響を強く受けている背景を感じる。だがそれは、民俗学見地というより何か別の動機があるのかもしれない。井上ひさしが「遠野物語」で「東北文化の収奪」「地方の文化が中央に召し上げられた」そういう趣旨の感想を残しているそうだが、その後の帝国の末路を知ると、そう疑われてもしかたがない。一方、「願わくは、これらの伝承を平地人に戦慄せしめよ」といった内容の前書きも書いてあり、柳田の姿勢も揺らいでいてとても興味をそそる。

土葬の村

葬儀に残る全国各地の奇習に驚かされる。例えば、死人食や、焼いた灰を体に塗り厄除けとしたり、葬儀以外にも戦前まで残っていた「間引き」「子返し」の風習にもトラウマ級に驚かされた(他にもいろんな奇習が)。土葬以外にも風葬が沖縄を中心に残っていた。科学が今ほど発達していなかった頃、信仰や伝承によって非科学的な作法が信じられており、今では無駄と思えるような弔い方がされていた。だが弔いとは本来、決して死人に届かない儀式をしていることであり「無駄」なことかもしれない。だが無駄としりつつ厳かに儀式を続け残すことは、それこそ亡き人への愛情あってのことだろうと、さまざまな感情が湧き上がる本でした。

禁忌習俗事典: タブーの民俗学手帳 (河出文庫)

日本の代表的な民俗学者でり大日本帝国下の農務官僚でもあった柳田國男の著作。先に読んだ「土葬の村」の興味深さの勢いに乗って読んだ本で、「夜に爪を切ってはいけない」等の日本各地の有名無名なタブー習慣をひたすら箇条書きで紹介している辞書のような本。子供の頃よく「夜に口笛を吹くと蛇がでる」と言われて禁じられたが、その掲載はなく「爪」以外はほとんど知らないものばかりだった。タブーの習慣を通して日本民族の表に出ない内面世界を知ることができる。それはベネディクトの「菊と刀」で分析されているような「恥の文化」を感じさせる。

遊郭と日本人

今年2024年3月開催の東京芸大「大吉原展」行くことを決めた本。「売春宿」的な側面以外にもさまざまな文化が集中した日本独自の「サロン」であったと。著者特有の現代的視点、男女格差のない視点がとてもハッとさせられ、自分の中の先入観が剥がれ落ちる体験となった。従来の性産業としての吉原を好む男性、または古い男性にとっては、終章のジェンダー視点に違和感を感じるだろう。

語学

日本語が消滅する(山口仲美)

日本語は100年後消滅するんではないかと思うことがある。カタカナ語、外来語が不必要に溢れ、日本語が軽視されている気がするからだ。日本語よりも英語のが先進的でカッコイイ。そんな印象が広がっているのは確かだ。その理由はなんだろう。日本はいつか日本語をなくしたいのだろうか?もしや、そのような長期計画のもとに国の中枢は考えているのだろうか?この本を読むと、そんな長期プランがかつて国会で議論されていたことがあったとの記述もあり、国内で度々おこっている国語や英語に関する論議が詳細に紹介されていてとても興味深い。予備知識として世界中の言語にはどんなものがあり、話し言葉はあるが文字化されていない言語など、世界中にさまざまな言語があり、その多様性こそ文化と経済が活発化することを本書は訴えている。とてもおもしろい本だった。

英語独習法・今井むつみ著 (岩波新書)

スキーマという言葉(理屈やエビデンスはないが理解できている概念。英語話者には英文法スキーマがありそれを学習者は理解する必要があることを本書は訴える)を覚えた。

英語学習に便利なWebディクショナリー

本書で紹介されていた英語スキーマ習得の助けになる以下のWebツールがとても気になるので是非学習に取り入れてみたいと思う。一部有料らしいが、どんなものなのか覗いてみたい方は下記リンクからどうぞ。

【参考】この本を詳しく解説したブログ

日本語の大疑問 眠れなくなるほど面白い ことばの世界 (幻冬舎新書)

犬年を「戌年」と書き表したり、訓読みの「新(あら)た」を「新(あたら)しい」が違うなど、日本語にある様々な謎を質問+回答形式で答えている。なぜ日本にはカタカナ語が多いか?の問いには、名詞、動詞の文法規律が厳しい外国と違い日本語はどんな外来語も取り入れやすい構造である点が解説されていて、あー、そういう理由もあるのかもと思うが、もっと本質的な理由を避けている気がするし、他の解説でも不満はあったものの、今の自分には面白く読めた。外来語を日本語に取り入れる国の取り決めも想像以上に複雑そうでなるほどなと。不満が残るのは、外来語を取り入れる仕事に重点をおかれていたが、カタカナではない「新日本語」を作ろうという姿勢がまったく感じない点。そういうもんなのか。

ホンモノの日本語を話していますか?(金田一春彦)

干支の起源などさまざまな日本語の裏話が収録されている本。国語辞典を数多く編纂する有名な金田一春彦さんで、その父は言語学者の金田一京助。たまにテレビに出る金田一秀穂は春彦さんの子供。言語学者一家すごいね。

科学

面白くて眠れなくなる植物学

人類と気候の10万年史

グリーンランドの地層40mを掘り起こすと地球上の長期間の天候のカレンダーがミルフィーユの層のように高解像度で解明できる。その分析をすすめると地球天候のほとんどは全球凍結の状態であり、いまのような暖かい天候はわずかな期間しかないことがわかる。私たち現代の人類はわずかな好天候期間に生きているに過ぎず、氷河期がくる周期はかならずあり、その法則ががあるはずだ、と解くこの本の終盤はとてもエキサイティングで恐ろしい研究内容だった。中国の人気小説に、世界的なSF小説賞である「ヒューゴ賞」を受賞した「三体」という話がある。三つの太陽の強い影響下にある未知の惑星に起こる複雑な気候変動がテーマなのだが、遠いSF世界の話ではなく、地球にも起こっている惑星レベルの課題があるということを、この本を読んで思い知らされる。そんな内容。「全地球アトラス」というYoutube動画も面白いので参考に。

量子力学の多世界解釈

マルチバースのワクワクする話かなと、読み始めてらとんでもない難しい話で、量子論や基本的な物理学や法則を理解していることが前提の論文なので、初心者がさらっと読むモノではありませんでした。でも多元宇宙論とは、こういうことが論点となっていて、こういう話をするんだなと、初心者にとってはその程度の参考にはなります。

生命とは何か : 物理的にみた生細胞(シュレーディンガー著)

自分の頭ではほとんど理解できず、興味のある章だけ読むだけ読んだ。物理や生物学については、大きく噛み砕いた解説本でないと理解できないようだ。当たり前か。この本を読む前に、量子論の解説本で「シュレディンガーの猫」について知り、とても面白く興味が湧いたので、その勢いで読んだ、が無理でした。観測前は物質は波動であり、観測して初めて物質として確認できる、とする量子論は知れば知るほど面白い。が、生命に踏み込むと訳わからなくなりました。

なぜ宇宙は存在するのか〜はじめての現代宇宙論

不思議な量子論の話が好きなので、定評のあるブルーバックス新書からいくつか選んで読書中。比較的簡単な解説だが、やはりよくわからない。けど面白くて不思議な宇宙の話。最近SF映画でマルチバースの話がよく出てくるので、最新の宇宙理論を知っておくとより一層映画やドラマを楽しめます。

真空にあるエネルギーの揺らぎ

この本で特に楽しめたのは真空の定義の説明のなかで、粒子も何もない真空であってもエネルギーの揺らぎというのが宇宙には存在し、量子論は真空中の突発的なエネルギーの発生と消滅を瞬間的に起こすことができると説明しており、その揺らぎこそがダークエネルギーの質量として観測できるのだと。それが多元宇宙の誕生と捉えられる説が説明され、宇宙の奥深さを知ることができたこと。その他、宇宙背景放射や、宇宙の大きさや、インフレーション、超弦理論など、さまざまな興味深い宇宙論がまとめて説明されていて、とても面白い本でした。

その他

死とは何か イェール大学で23年間連続の人気講義

これを「科学」のカテゴリに入れるかは迷うが、精神を「科学的」に考察している点でここに含めた。講義のようにとても遠回しに語っていたので本題だけをまとめるともっと短くできた内容だった印象。結局は安楽死や脳死を「人間の死」と捉え、認知症が進んだ高齢者や安楽死を容認することを暗黙のうちに認めようとの認識に安易につながる結論になっている余韻が残りました。あのように徹底的に死を深掘りするなら安楽死や脳死についてもページを割いくべきだと感じる。イエール大学といえば、「助教授」と語るも実はアシスタンドだったと報じられた「高齢者は集団自決すべき」の成田悠輔(助教)を思い出す。

社会

デカルト・方法序説

「我思う、ゆえに我あり」の言葉で有名な哲学者デカルトの本で、なぜ「我思う」の結論に至ったか、その思考的理由が詳細に綴られている本。前半はなんとなく理解できたが、後半になるほど難しいというか掴みどころがわからなくなるというか難解になってくる。前半の章で印象深い言葉を挙げると「哲学書や教授の言葉、授業などがいかに曖昧で机上の空論で、論議が定まらず習得した気分になる危険性を感じた私は、学生である時間を大いに利用して旅にでることにした」「旅はさまざまな人々や風習との出会いから、自らを日々反省し、毎日毎日が自己修正の繰り返しである。それは自分を自然に成長させ、失敗することで自己修練していく最良の機会である」という趣旨の言葉。これを若い自分が読んでいたなら、旅について考えが変わっていただろう。

我思う、とは何なのか

問題の「我思う、ゆえに我あり」とは、全ての学問を本当に自分のものにするには、教科書を丸呑みせず思考停止することなくゼロから論理を組み立てる姿勢で臨み習得してこそ学問であり、そのように何の疑いもなく組み立ててこそ真に正しい論理だといえる。という姿勢から生まれた言葉であると受け止めた。今風の言い方で言うと「既出の正論に胡座をかき思考停止するな」ということだろう。スコラ哲学(キリスト教会の教理の体系化をめざした哲学で、アリストテレスが発祥)が基本となっていたこの時代、デカルトのこの言葉によって、科学的なエビデンスが以降の哲学で重要視されたと考えられる。

はじめてのスピノザ 自由へのエチカ: (講談社現代新書)

「我思う故に我あり」で知られるデカルトと同時代にいた哲学者スピノザ。その哲学書「エチカ」をわかりやすく解説した本。岩波新書に同じ著者の書物があり、その本とあわせて理解を深めたいと思う。特に「人間は自由意志など持つことはできず、必然性に従うことこそ自由」だと説くその根拠がよくわからないままなので。「神=大自然」という宇宙観が、少年時代ぼんやり抱いていた感覚と似ているなと感じた。有神論が今だに影響力が強かった時代に、神を含めたこの世の中を合理的科学的に分解し説明しようとしている点が面白く、AIやメタバースなどで人類の正義や価値が再定義されようとしている現在、再注目され重要な視点がある気がする。特に、「自由意志」「善悪」に対する考え方はとても面白い。デカルト哲学にも同時に興味がわく。

エチカの要点
  • すべての個体はそれぞれに完全である。
  • 善悪は物事の組み合わせで決まる。
  • 「力」こそ物の本質である。
  • 自殺や拒食の原因は人の内側にはない。
  • 一人ひとりの自由が社会の安定につながる。
  • 必然性に従うことこそ自由である。
  • 自由な意志など存在しない。
  • 意志は行為を一元的に決定しない。
  • 真理の外側に真理の基準はない。
  • 新しい主体のあり方が真理の真理性を支える。
用語解説
  • エチカ:倫理学
  • コナトゥス:事物が生来持っている、存在し、自らを高め続けようとする傾向やチカラ。本来の自分でいられる場所。
  • 変状、個物、様態:神は水や人間などに「変状」しさまざまな万物に姿を変えている、とする考え方で、変状した実態「個物」、その状態を「様態」と呼ぶ
  • 反復的契約説:一般的な契約を一回性の契約であるのに対して、自然に人々を秩序立て日々更新される約束事を反復的契約説と呼び、自然と人間の秩序を維持している万物の自然発生的な秩序。ジブリ映画「千と千尋の神隠し」や「君たちはどう生きるか」のセリフでたびたび登場する「契約」という言葉は、このエチカ哲学からヒントを得ているのではないだろうか。「宇宙戦争」の終盤のナレーションにも似ている。

スマホはどこまで脳を壊すか

スマホ利用時の脳活動を調べると「ぼーっとしている状態と変わらないというレポートが衝撃的な本書。前頭前野をはじめとした脳について詳しく解説している本。スマホの脳への影響については「スマホ脳」がベストセラーになり有名だが、その本の内容に近いものを期待して読むとがっかりしてしまう。本書は脳についての解説と統計がほとんどで、スマホとの関係については専門的なデータや最新の知見をまとめてレポートされたものではない。すごく大まかにまとめると、スマホの利用、特に子供や低学年での使用は後の脳発達への悪影響が多く報告されていて、大人の使用であっても鬱や気力低下などにつながる。依存傾向がとても強いので断絶、または1日2、3時間など適度に抑制すべし。特にSNSは抑えることが肝心。スマホやSNSだけでなくインターネット自体から断絶されてもストレスにならない自己を保持するのが理想である。

スマホ脳(アンデシュ・ハンセン)

世界と私のA to Z(竹田ダニエル)

「Z世代」と言われる現代の若者やその上であるミレニアル世代の考え方、流行、こだわり、メンタルヘルス、出会や恋愛、変わりゆく性の捉え方、などを紹介。楽曲ではオリヴィア・ロドリコの「ドライバーズ・ライセンス」、アルバム「SOUR」を紹介し、その歌詞にある偏見や不条理について触れ、Z世代がもつミレニアル世代より上にはない社会への不条理に向き合う姿勢を感じ取れる。

本を読んでざっと記憶しているZ世代の特徴をまとめると次の通り。

この本が捉えるZ世代の特徴
  • 社会への不条理に向き合う姿勢(その上の世代や悟り世代独特の「諦め」に嫌悪)
  • スピリチュアル志向(星占いやストーン、ヨガ、瞑想などの内面文化を好む)
  • 共産主義を体験しておらず、左派言論に寛容
  • インスタ等SNSを好む反面、リテラシーも強い(同調圧力や自己顕示欲を警戒)
  • 自分を保つことにこだわり(独自のスタイル性やセレブ感を持つ)
スピリチュアル文化を好むZ世代

この特徴のなかでもスピリチュアルに抵抗がない特徴に、危険性を感じる。というのは以前、雨宮純の書籍「私を陰謀論者にする言葉」の中で、Qアノンやネトウヨはじめとする陰謀論者からカルト宗教まで、一般人向けの入り口となっているのはどこにでもあるスピリチュアル教室であり警戒が必要である、との趣旨の内容を読んでいたからだ。手放しに「スピリチュアル好き」である点だけを好意的に紹介している竹田氏の本書に軽さを感じた。が、全体的にはとても参考になる内容だった。

HSPブームの功罪を問う

HSP(ハイセンシティブパーソン)いわゆる「繊細さん」と呼ばれベストセラーにもなった言葉。生まれつき感受性が強く、敏感な気質をもった人だが、疾患として診断されるものではなく、人の個性と捉えられる気質。

私を陰謀論者にする言葉(雨宮純)

UFOや未確認生物(UMA)などのお馴染みの陰謀論から、米国議会襲撃事件に発達したQアノンまで、ファンタジー風の楽しめる陰謀論から死者まで出た怖いものまでありとあらゆる陰謀論が辞書のように網羅されていおり、哲学的な定義解説はほどほどに、ゲームやPOPカルチャーとともにわかりやすく解説されていてとても面白く読むことができた本。とにかく研究量、知識量がすごい。しかし、全ての陰謀論の出所や定義がされているのではなく、筆者が関心を持っている対象は深く掘り下げ、そうでないものはサッと名前だけ紹介している点が少し残念。例えば、「アポロ月面着陸のスタジオ撮影疑惑」「日航機123便墜落の自衛隊による撃墜疑惑」「9.11自作自演」については「陰謀論」一言で切り捨てられ根拠や解説はない。つまり本書は「陰謀論とされているもの」に対する著者の感想を広範囲で述べているに過ぎない書籍に見えてしまう点で、とてももったいない。とはいえ、フェイクニュースやポストトゥルースと言われるこの時代に多くの陰謀論を解説している点での意義は大きいと感じる。

誰もが陰謀にハマりやすい環境にいる

この本が伝えたいことは、「私を陰謀論者にする言葉」という書籍名が伝えている通り、私たちの周辺の手の届くところにある様々な陰謀論を紹介することで「誰もが陰謀論者になれる環境が整っている」ということだろう。例えば占いやヨガ、UFOといった誰もが話題にする話や健康法でも宗教や陰謀論の入り口になっているという現実。カルト教祖や陰謀論者などの詐欺師にとって入り口をわかりにくくすることは、某カルト宗教の名称変更疑惑がニュースになっていることと根は同じ。ファンタジーとして楽しむだけならまだいいが、それ以上に深入りするのは人生を無駄にするので注意が必要。SNSなどで陰謀論にハマりやすい現在、家族や大切な友人にも、この知識を共有すべきだろう。

陰謀論は人を殺す

本書では踏み込んでいないが、歴史上の陰謀論は最終的に人を大量に虐殺している。ナチスによる民族浄化、ルワンダ虐殺、インドネシア虐殺、日本関東大震災の朝鮮人虐殺がそうだ。本書では、オウム心理教による地下鉄サリンテロ、ジョーンズタウンでの子供300人を含むカルト信者数900人を巻き込んだ集団自殺などが触れられている。入口がファンタジー、出口は地獄。それが陰謀論に内在しているもっとも恐ろしい道順といえる。SNSで見かけたら軽く聞き流してはいけないのだ。言うべき時にはビシッと指摘し釘を打つことが歴史の教訓だと肝に銘じる必要がある。

陰謀論を信じそうになった過去

事実、僕の友人に陰謀論にハマった旧友がいるし、僕自身カルト宗教を信じ掛ける経験が過去にあった。この書物が取り上げていない漏れた陰謀論は今も次々と誕生しているだろうし、今後も注意が必要だ。だがしかし、慎重になりすぎて真実から目を背けることも愚かなことなので、探究心は続けて保つことが大事。そのバランスが重要だろう。そういう意味で本書は過去の歴史から陰謀論にハマるほぼ事例を知り全パターンを俯瞰でき、その知見を自分の経験として活かすことができる良書だと感じた。

心理学

「一人が好きな人」の上手な生き方(ティボ ムリス)

集団の中でわいわいしているよりも、一人でいるほうが楽しさを感じる内向的性格の人のための本。社会ほとんどが外交的な社会集団で構成されているなか、一部の内向的性格者は「外交的性格」に影響されることなく、「外交的」を演じることなく、無理なく自分らしく生き精神が疲弊しないようにすることを説いている。その一方、ときには人と接しなくては本当の「引きこもり」になってしまうと警告している。無理に「付き合い」に参加しなくてもよく、参加したとしても無理なく自分の性格に向き合い「外交的な自分」になろうとしないこと。この言葉に心が救われる。

だれとも打ち解けられない人(加藤 諦三)

加藤 諦三の本。

人権

ケアの倫理〜〜フェミニズムの政治思想(岡野八代)

トゥンベリゴン、暇空茜、杉田水脈、などの有名アンチフェミアカウントや政治家、それに無数の予備軍がSNSでたくさんの男性ファンを集め、バックラッシュの大波が起きているこんにち、フェミニズム(女性の人権を推進する考え)には関心があったが、この本のタイトル「ケア(Care)」とどう関係があるんだろう。そもそもケアとはなんだろう。と二つの興味から読み始めた本書。前半はフェミニズム運動の世界史で、中盤は哲学的解説、後半は日本と今後の課題、といった構成。資本論を何度読んでも理解できない自分にとって、中盤の哲学編はとても難解で理解が進みづらいいのは、他の哲学書同様、哲学書はたくさんの知見がないと理解できない学問であるとともに自分の頭の悪さだと仕方ないとして、前半の世界史と後半の日本での実践はとても参考になったし気づきが多かった。特に、「ケア」とは、男性が労働に1日の時間のほぼ全てを取られつつある現在の過酷な労働環境の中で、労働以外の日常作業、つまり、洗濯、掃除、食事、などの生活で必要不可欠な世話全般を「ケア」と定義し、その役割は歴史上、すべて女性の社会的役割として当然のように強制され、受け入れてきたこと。その発想にとても驚かされた内容だった。簡単にいうとケアとは、自分も含めた「人」の世話といえる。女性に人権を、女性差別を無くそう、というが、今の女性の社会環境では進まないし、その理由は女性がケア人材としての目に見えない役割が社会通念上あるからだ。この「時間外労働」をどう社会で分担するため社会構造を変えていくのか、という視点が重要になりその点を社会と政治が共有していくことが課題となると訴える一方、その反対勢力として家父長制(血縁関係をもった家族をもち、そしてそのリーダーはからなず父が受け持ち、そういった家族を社会模範としつつ、その構造を国家観にも反映しようとする思想や政治運動。主に日本会議、統一協会の影響下にある自民党内の宗教右派勢力が推進している)と夫婦別姓反対を堅持しようとする保守層のバックラッシュを指摘する。難しいことはいいから、ささっと概要だけ読みたい!という人は、最終章とあとがき、これだけで十分読み応えがあるのでおすすめ。ケアという言葉を発見できた。

孤闘:三浦瑠麗裁判1345日

テレビで引っ張りだこの政治学者であり、10万人以上のフォロワーを持つセレブ系インフルエンサーであり、そして、太陽光転売ビジネス「トライベイ・キャピタル」の投資詐欺で逮捕された三浦被告を夫に持つ三浦瑠麗。毎週のように出演していた「朝生」にも出演されなったが、人気絶頂期に三浦瑠麗を名誉毀損とプライバシー侵害で訴えたテレビ朝日記者の手記。

ある日突然、インフルエンサーに個人情報を暴露され10万規模のフォロワーに広まってしまったら、と自分だったらとても恐ろしいことだろう。「自分の幸せはもう諦めた」という前書き化は始まる本書はとても心の痛いノンフィクションになっている。

武器としての国際人権〜日本に貧困・報道・差別

国際的な人権問題というと中国ウイグル民族の迫害や北朝鮮の拉致問題、ロシアの強権的な政治とジャーナリストの暗殺事件、ミャンマーの軍事独裁政権による少数民族ロヒンギャへの迫害、イスラエルによるパレスチナへの軍事侵攻や迫害、などが思い浮かぶが、この本は日本国内にある人権問題に焦点をあて、国連特別報告官である立場からあらゆる問題点をしてきしていて、そのなかで、日本は国連からいくつもの是正勧告、警告、改善要求がでているもののほとんどが無視されたり、なかには「国連勧告は罰則がなく従うべきであると法律で定められているものではない」といった趣旨の閣議決定までされて確信犯的に無視しつづけている状況であることに照明をあてている内容。それに加え最近ではジェンダーギャップや報道の自由度がどんどんランクが下がっており、これでは外国の人権問題にアレコレ文句をいえるものではなく、とても驚いた。藤田早苗という著者にとても関心が高まり、マスコミ以上のすごい行動力、調査力と思った。同氏はYouTubeでジャニーズ喜多川事件への姿勢と国連への侮辱も強く批判している。

この国を覆う憎悪と嘲笑の濁流の正体

目の見えない人は世界をどう見ているのか

色は理解できるが、色を混ぜることが理解しにくいなど、目の見えない人がどのように世界を捉えているのか。どのように接すればいいのかが詳しく解説されている本。空間の捉え方がとても敏感で独特で、読んでいてハッとさせられることが多い。人間がいかに視覚に依存しているかが理解でき、そのメリットとデメリットを感じられる。

発達性トラウマ 「生きづらさ」の正体

発達性トラウマとは、先天的である発達性障害と違い、幼少期からの成長の過程で受けたトラウマから生じる症状で発達性障害によく似た症状が多く見られる症状を指す。「毒親」といった流行語が作られるこんにち、家庭内や環境から受けるトラウマから人格形成に影響をうけた人は多く、そのセラピーに携わっているみきいちたろう先生による著作。安富あゆみ東大教授などの本を引用。とても面白かった。

経済

日本が先進国から脱落する日――“円安という麻薬”が日本を貧しくした!!(野口 悠紀雄)

最後の一行に全てが詰まっていた。おおよそ次のような言葉だった。「この国は戦後、長期に及び保守政権・右派政権が続いたことで社会体制、経済政策が古いままであった。社会を前に進める革新政党が国の体制をアップデートできていないことが、この国の不幸がある」。もっと短い言葉だったが、要約し具体的に噛み砕くと大体このような内容だった。

書いてはいけない〜日本経済墜落の真相(森永卓郎)

  1. ジャニーズ事務所で少年性加害問題
  2. 「ザイム真理教」と揶揄される緊縮派(リフレ派)の無用な増税
  3. 日航機123便の自衛隊機誤爆疑惑

元経産官僚であり現在は膵臓がんステージ4の経済学者・森永卓郎さんによる、日本のマスコミを支配するこれら3つのタブーに切り込んだ遺言のようなノンフィクション。「ザイム真理教」についてはこのページでも紹介し感想を書いている本で、専門用語が多く難解だがとても面白くベストセラーにもなったものの、新聞やテレビではまったく取り上げられないどころか、降板や企画ボツまでされたという経緯が紹介されている。

日航機123便事故の不可解さ

日航機123便の自衛隊誤爆疑惑については、Youtube発祥の陰謀論動画との認識だったが、この本でいろんな背景や状況証拠、子供の証言や写真を知り驚いた。特にオレンジ色(赤色)、流れ星が日航機に近づいていく証言や、ファントム2機が並行して飛んでいた目撃証言は、公式の調査報告書には全く触れていない点、それに遺族が最も公開を希望していたフライトレコーダーが非公開になっている点、など不審な点が多く、当時の中曽根総理の元でこの事故(事件)が闇に葬られて以降、日本の対米外交と経済が真っ逆さまに落ちていっている点に注意を向けられずにはいられなくなる。真実を明らかにするためにフライトレコーダーは公開されるべきだ。この章を読み疑問を深めた自分は、事故にあったCAの友人とされる人が執念で調査した書籍「日航123便 墜落の新事実 目撃証言から真相に」も読んだが、この事故に対しさらに疑惑が深まった。これは多くの犠牲者や遺族の無念を思うと絶対に風化してはいけない。

日航123便 墜落の新事実 目撃証言から真相に迫る (河出文庫)

森永さんの「書いてはいけない」を読んで興味が湧いた日航機123便事故(事件)について、犠牲となったCAの友人である青山さんによる執念の独自取材でレポートしたノンフィクション。森永さんが紹介した通りであり想像以上にひどい現実であった。現地住人から沢山の目撃証言が電話で寄せられているにもかかわらず、誤った墜落場所を速報しつづけてたNHKなど、さまざまな疑問点や不自然な点をつなぎ合わせると、とんでもない歴史の汚点が浮かび上がってくるという衝撃の内容。2機のファントム、赤い飛行物体、オレンジ色に輝き航空機後方に張り付いていた長方形の何か。身元も特定もせず遺体を破棄する警察。御巣鷹山に残る火炎放射器の残留物と炭化した遺体。ファントム機の飛行は多くの目撃証言があるにもかかわらず、ニュースはおろか事故調査報告書にもまったく触れられていない。事故から10年以上経った後で海底で発見された後方尾翼を、検証もせず「解決したことだ」との理由で処分する関係者。非公開のフライトレコードダー。
映画にもなった「沈まぬ太陽」の原作者・山崎豊子も本書を読んで感想を寄せていることがあとがきに添えられている。

日本銀行 我が国に迫る危機

左右問わずあらゆる方面から破綻間近といわれている日銀と日本経済。その理由と回避策はあるのかを知りたくて読んだ本。中盤は専門用語が羅列しよくわからないが、前半と後半のまとめ部分で相当危なく回避不可能であることが思い知らされる。このまま円の価値が下がりハイパーインフレーションが起こったとしたら、お金よりも価値のある他の「価値」にお金を換金しようと、過去実際にデフォルト危機、通貨危機が起こったアイルランドやギリシャの例で解説する後半はとても教訓深い。それを現在に例えると、暴落前にお金をモノや仮想通貨に変えることが勧められている。この本では言及はないが、米ドルの破綻もSNSで噂されており、円破綻と重なり今年3月ごろから続いている仮想通貨の暴騰はこれを裏付けているように見える。不気味だ。

アベノミクスの失敗

出口戦略について「時期尚早」とだけ語り回答を拒否する日銀・黒田総裁の記者会見。数々の異次元といわれるガラパゴスな経済政策。安倍総理時代に行われた規制緩和、異次元の量的緩和、などに代表される「アベノミクス」の失敗は国外の論調では常識のように報じられており、一方国内では「アベノミクス」という言葉さえ出てこなくなってしまった。このことが、やがてくる「敗戦」を裏付ける空気になっていて、さらに恐ろしさを感じる。

この本で習う経済用語と大雑把な説明
  • プライマリーバランス
    基礎的財政収支=国の歳入と歳出の差で、黒字化を目指す指標
  • イールドカーブコントロール
    2016.9から日銀が行った長期金利、短期金利を操作する大規模金融政策
  • 財政ファイナンス
    中央銀行が通貨を発行して国債を直接引き受けること。財政法で禁じられているが、民間銀行に迂回することで表面上「回避」している
超インフレ回避策
  • 有価証券化(株式、投資信託)
  • 外資建て資産化(外資預金、外資建保険)
  • 実物資産化(不動産、金)
  • 仮想通貨(ビットコイン、アルトコイン、ドルステーブル)

ゼロからの「資本論」(斎藤幸平)

コモン、アソシエイト、コミュニティ、などの用語を通じて成長一辺倒の現代に警鐘を鳴らす内容。ベーシックインカムやボランティア活動、経済困窮世帯への社会支援について、テレビ番組でのコメントがSNSでたびたび話題になっている若い社会学者・斎藤幸平さんによる「資本論」解説。そもそもこの本がベストセラーになったことで著者が注目されたんだと記憶している。資本主義と社会主義が直接対峙していた冷戦構造が崩れ、資本主義陣営が実質勝利したと言われているこんにちの情勢は、BRICSをはじめとした中国・ロシア・アフリカ陣営の台頭により資本主義陣営の結束が綻んでいるように見える。世界の警察を自認し百戦錬磨のイメージだった資本主義国内の格差問題が顕著に現れ、米国大都会での貧困層動画が中国のSNSでバズっていたことを目にした僕は驚き、もしかして資本主義の衰退は隠しきれなくなっており、世界中に動揺が広がっているのではないか、という問題意識から難解で興味も薄かった「資本論」に興味が沸き読んでみた本。想像通り定義説明が多く難解でわかりにくいが、著者である斎藤さんの定評あるわかりやすい解説で1/3ほどは理解できた。もう何度か読んでみないといかんな。

アソシエイト(NGOのような自主的な共同体)が要

難解な本だが要点をまとめると、思考停止して資本主義にすべてを任せてしまうと現在のように新自由主義(国民の自由ではなく、資本家の自由が優先され、国民の人権が疎かになっていく政策。資本家と国との癒着)が蔓延し国民は消費され疲弊する。これは結果的に国と資本主義自体を衰退させる、といった内容。その防止にはドイツや東欧のような福祉的な資本主義を目指すこと、より具体的には政府の福祉に頼らずトップダウンではない下からの発案を重視し、失われた共同体を再建すること、とある。そもそも共同体を解体を推し進めてきた日本は、アソシエイトをなくすことで国民を分断し消費行動集中、自己責任論定着、これで公助にかかるコストをカットしてきたといえる。など色々と想像をめぐらせられる。

脱成長について

斎藤氏の主張の中で脱成長に向かうべき、という主張があるが、これにはテレビコメンテーターのほとんどが異論を唱えている。このページで感想を書いた藤井聡氏の書籍「グローバリズム植民地 ニッポン – あなたの知らない「反成長」と「平和主義」の恐怖」もその一冊だ。ちなみに斎藤しは成長に反対している「反成長」ではなく、成長を優先し国民生活を犠牲にすべきではないという立場の「脱成長」。反対派はこの点混合し批判しているようだ。

ザイム真理教――それは信者8000万人の巨大カルト

テレビコメンテーターとしてテレビでよく登場していた経済学者・森永卓郎さんのベストセラー本。経済学用語がたくさんで半分以上は理解できなかったが面白く、財務省のマインド、裏事情、消費税をなぜ下げられないのか、歴代総理が歴任前の消費税減税の訴えを総理就任後すぐ撤回するのはなぜか、ということが詳細に記されている。軽減税率からなぜか優遇された新聞社が東京都千代田区の一等地に土地を所有しているのも財務省から、森友学園のように超低額で供与された背景にも踏み込み、財官報の癒着を暴露。頼みの綱だった立憲民主党だが「消費税25%まで上げる必要がある」との意見を聞き絶望。どんどん消費税が上がっていくこの先、税金の安い田舎に引っ越し、畑を耕し自産自消をして増税を交わすしかない、との結論に達するシニカルな内容。

なぜ日本は原発を止められないのか(青木美希)

元月刊誌記者で、現在はフリージャーナリスト・青木美希さんの書籍。日本の原子力開発の歴史と原子力推進の経緯、国内での原子力災害、事故、そして福島原子力発電所の水素爆発、核使用燃料の再利用サイクルの破綻。それによる核のゴミ保管場所がいまだ決定されていない現実。策定を無視され続ける避難計画。核汚染各種からだけを取り除きストロンチウムなどが残っているアルプス処理水を汚染水と呼ばずメディアも同調している現実。原子力政策を監視すべき立場のメディアや原子力規制庁に、東芝、三菱、東電をはじめ電事連などの原子力発電事業者本人が直接出入りし出向している事実。当初は自粛されていた大手新聞への原発広告も「意見広告」ならと朝日新聞から次第に出し始め、そのことで広まった「安全神話」と、その広告料負担でどんどん上乗せされる電気料金。メディアで重要される原発御用学者。…誰が知っても廃炉すべきとの結論に達する日本の原子力発電で廃炉が世界の趨勢だが未だ「原発維持」が朝日新聞の内部資料を紹介しながら明かされていく。テレビでは紹介されないが、犠牲者も驚くほど多い。麻生財務省大臣が「原子力で亡くなった人はいない」といった趣旨の発言をしているが、とんでもない話だろう。環境を重視し世界と歩調を合わせ太陽光発電など再エネ開発にいち早く取り組むべきだろう。

原発を止められない理由はなにか

本書の結論で述べられている「なぜ原発をやめられないか」の結論は、原発を止められない理由を、記憶の限りざっとまとめると次の通り。

  • 既得権益業者が困る。自民党への強力な協力者だった巨大ゼネコン、電事連、広告業者などの大献金が減る
  • さまざまなしがらみから、そもそも廃炉プロセスの策定が不可能である。ならずるずると先延ばし。
  • 以上の理由から廃炉によって現政権へのダメージが巨大すぎて政権維持できないし、廃炉費用は東電だけでなく国負担が大きな割合になる。よってダメージは計り知れず結論を出したくない。
  • これらのダメージを背負う覚悟がある政権、総理大臣が、廃炉ができる。

原発の嘘

かつて原発建設に携わっていたご本人による著作。福島原発の事故後にたくさんの公演や本を出していて有名。現役の工学専門家による原発ノンフィクション。かつて日本に原子力発電所が一つもなかったとき、建設をPRする電力会社の「電気料金が2000分の1になる」というウソの宣伝をしていた事実に仰天。国鉄民営化をPRする時も交通費が安くなる、路線が広がる、などと宣伝していたが、実際は真逆になったことを思い出しました。

未来の地図帳 人口減少日本で各地に起きること

9割の社会問題はビジネスで解決できる

日本の消費者はどう変わったか

グローバリズム植民地ニッポン – あなたの知らない「反成長」

元官僚をされてた京都大学の教授。前半では日本経済の衰退は「反成長」「平和主義」にあるとして左派を批判し、後半では日本の法律や憲法の上に位置すると言われている「日米合同委員会」と政府の対米従属姿勢を批判。平和が成長を阻害する、という趣旨の著者意見に疑問が残るなど、所々違和感があるが、この手の本にしては煽らない落ち着いたトーン。テレビ新聞界では見かけない「反米保守」姿勢。

政治

職業としての政治 (マックス・ヴェーバー/岩波文庫)

「職業としての政治」と聞くと政治がお金儲けだなんて政治家らしくない、不謹慎、と感じるが、専制君主制の時代と違い現代は貧しい人でも政治家になるチャンスがある平等・公平な時代であるから、経済力のない人が政治家になるにはちゃんとお金のリターンがある政治をしなくては持続できない、という発想から、資金潤沢な貴族出身政治家に対抗できる手段として「職業としての政治」が提唱されている。その点で印象とちがい現代的な政治の運営方法を詳細に述べられているのだが、途中まで理解できたが中盤から他の哲学書や政治学問書の引用が多くなり、難解すぎて挫折。引用されるようないろんな文献を読んだ上で再挑戦したいなと。

国家とは暴力に支えられた支配関係

国家とは、「正当な暴力」行使という手段に支えられた支配関係である

マックス・ヴェーバー「職業としての政治」から要約し引用

本書を読みながらドキッとさせられたのがこの一文(要約)。警察や軍隊などの暴力的手段によって国民は支配されているという、とてもあっさりした非倫理的な国家解釈がされていてとても驚く。中世ならまだしも近代といえども結局はこういうことなのかと。だがこの矛盾をヴェーバー自身も認めており、こうして非合理性を「信条倫理」「責任倫理」「情熱」を併せ持ち挫けずに行動できる人間こそが理想的な政治家であると説いていて、とても興味深かった。

周りを見渡して、そんな政治家がいるだろうか。そんな信条をもった政治家こそ当選されるのにふさわしいだろうが実際は現在ポピュリズムが過剰なまでに目立つ。ヴェーバー的視点にたつと、ポピュリズム政治が批判の対象になりうるのだがマスコミ報道をみるとそうなっておらず、現代民主主義がいかにヴェーバー時代と比較して問題点が多いかがわかる。

暴力とポピュリズムのアメリカ史──ミリシアがもたらす分断(中野 博文)

「ミリシア」とは、トムクランシー原作映画や、スパイもの、戦争もの映画でよく登場する、実際に現存するアメリカの民兵組織。戦後、70年間戦争がほとんどない日本の平和的な空気に馴染んでいる私たちからしたら、ミリシアを知ることはとても恐ろしい組織だ。日本で言ったら戦前に自警団があるが、関東大震災直後に朝鮮中国人虐殺という黒歴史が残っていて「福田村事件」という映画にもなっている。イギリスやフランスから戦争で勝ち取ったというアメリカの建国自体が民兵によって成された背景から市民からすすんで入隊するほど国民から尊敬された草の根的軍隊であった点で、アメリカの歴史と国民性が色濃く反映されていて、アメリカを知る上でとても興味深い。トランプ大統領がバイデンとの大統領選挙に敗れ、Qアノンなどの極右団体や支持者に扇動したことで引き起こされた2021年アメリカ議会議事堂襲撃事件のメンバーでもあり私たちからしたら「過激」と思われるミリシアが、アメリカの民主主義とどう共存し、変容していったかをじっくり解説した本書。とてもわかりやすい言葉で綴られていて、アメリカ史に詳しくない自分でも面白く読むことができた。この後で読んだ「アメリカとは何か 自画像と世界観をめぐる相剋 (岩波新書)」と合わせて、もう一度読み返したい本だ。

アメリカとは何か 自画像と世界観をめぐる相剋(渡辺 靖)

なぜ日本は没落するか

こういった、体勢批判の書物は主に野党側や左派論壇の記者がほとんどだが、この本は体制側である大日本帝国・海軍航空隊通信士官を経験した方の執筆である点でとても興味深く読んだ本。今から25年も前に、今日のような日本経済と政治の没落を予言していて、没落内容もほとんど的中しているという内容。その概要は、政治の空白が続く日本では政策が全くされないことで人口減少が止まらず、経済力も落ち、国際的な発言力は衰え、経済力も落ち、2050年には没落するであろう、との内容。恐ろしいのはこの25年の間に東関東大震災と福島原子力発電所の爆発とその後の汚染処理、そして安倍元総理大臣の銃殺と、そのことで露わになったカルト宗教との癒着構造による政治と選挙と三権分立の歪みがまったく加味されておらず、その背景を考慮するとすでに2050年の状態になっているのではと心配になる。なぜこうなってしまったかが、体制側の情報や立場からじっくり解説され、どれも読み応えあり、面白い。よくある陰謀論ではなく、理路整然と語られ章が淡々と進んでいいく構造が、かえって空恐ろしい。

この本が予想する2050年の日本

この本が超大胆に予言している未来の姿がとても興味深い。世界はいくつかの「広域国家共同体」で形成しつつあり、日本はその一つに選択肢もなく取り込まれ存在感がなくなるという。「広域国家共同体」はジョージオーウェルの近未来SF小説「1984」の世界観を想像させる。小説の世界だけだと思っていたが政治学者もそのように考えていたとは驚き。とういうことは、小説に登場するユーラシア、オセアニア、イースタシアのような共同体が現実に近い共同体としてEURO、NATO、BRICS、のような国際条約、軍事同盟が将来そのようになるのかなと。そうなると、今の右傾化した日本ならNATOにはいるということか。ウクライナのように日本は大国の代理戦争の当たり屋になってしまうのだろうか。

自民党の統一教会汚染(鈴木エイト著)

噂で皆うすうす知っていたのですが、あまりに陰謀論すぎて人に言うのが恥ずかしい気がした、政治とカルト宗教の繋がりについて、直接取材とエビデンスをもとに明確にレポートされている衝撃の一冊。たしかこの本と取材で、鈴木エイトさんはジャーナリストの賞を受賞しました。

日本を腐らせたいかがわしい人々(適菜収)

インターネット

ネットやSNSについての書籍も多く読んでいます。

僕らはSNSでモノを買う

この本は、他のSNSマーケ本に比べて簡潔・明瞭で面白かったのでこちらのページでじっくりまとめています。結局企画力が大事なので、その点のノウハウは自分で勉強し考案するしかない。

ファンに愛され売れ続ける秘訣

Twitterの伸ばし方(改訂版)

あなたに合ったTwitter活用術

売れるKindle出版のやり方

非常識Youtubeマーケティング

メタバースとは何か ~ ネット上の「もう一つの世界」

最近流行の「メタバース」を技術面から文化面まで様々な角度で解説する多面的な内容。特に、メタバースによって世界中の多様な人種や属性の人々がコミュニケーションすることによって起こる文化的干渉をどう乗り越えるか、ポリティカルコレクトネスや、男女平等、人種差別、などの乗り越えるべき課題の解説はとてもためになり、他にはない内容だった。この点、日本ではLGBTQの法律や男女平等が遅れており、しっかり課題を把握しておくべきと感じた。

文系AI人材になる

想像以上に実践的な内容だった。用途や難易度別に、ノーコードを含めAI環境を作る方法が詳しく解説されている。資料豊富。実際に環境を作る予定はなかったが、ざっと知るだけで面白かった。

いまこそ知りたいAIビジネス

AI時代の到来をどのように捉え、自分のものにしていくかの解説。「文系AI人材になる」では技術的な解説だったが、こちらは応用や運用に着目した内容。AIに乗り遅れないように準備し、どう活用するかの説明。同著者によりDXについても本が出ていて、そちらも読みました。会社のシステムを完全にデジタル化するのはもちろん、アプリや予測AIも導入し次世代化することが求められ、いかなる企業であっても少しでも進めるべきだとの内容。

いまこそ知りたいDX戦略 自社のコアを再定義し、デジタル化する

DXとはデジタルトランスフォームの略で、社内基幹システムのデジタル化、オンライン化、さらにはAIを使った次世代の業務支援システムを構築すること。通販、運送業などを中心にジャンルを問わず様々な業種でDX化が進んでおり、これを人類に起こる第四次産業革命とよばれているほど歴史的な大変化だという。その解説を詳しい実例をあげながら解説する本。ソフトバンクの講演で「AIを導入しないと、AIからみると人類は金魚ほどの脳細胞生物である」と訴えた孫正義社長の言葉をしみじみと実感できる。

教養としてのデータサイエンス

あらゆる面でクラウド化、AI化が進んだ現代で、ビッグデータの統計をどのように集計し、をどう分析し生かす人材をデータサイエンティストと予備、必要なスキルや業界説明、今後の展望などを解説する本。先に読んだ「いまこそ知りたいDX戦略」の不測部分を補完する内容だったので、この二つの本を両方読み理解が進んだ。

コラム

ヒトのオスは飼わないの?

嘘つきアーニャの真っ赤な真実」の作家でありロシア語通訳家・米原万里による、猫愛に満ちたペットコラム。ほぼ人間の子供のように扱っていてとても面白い。ノンフィクションをもっと読みたかったが3コラム程度で切り上げた。

50歳の分岐点〜差がつく「思秋期」の過ごし方

うつ予防のカウンセラーをしている現役精神科医師による加齢予防策だが、長い文章を読むほどではなかったし、老い防止のためには反倫理でも自己中心的でも許容する考えあり賛否両論あるだろう。ヒアルロン酸やボトックス注射など、美容整形を勧めるページを多く割いている点にも違和感がある。体制批判ばかりせず、時には雑誌「Will」を読み左右の思想的バランスをとるように勧めたり、右派作家の百田尚樹を推したり、「老後は500万円でなんとかなる」的なことを言ってエスタブリッシュメント特有の楽観的な考えを感じ、後半吐き気がした。本書で印象深い「過ごし方」の例は次の通り。

「思秋期」の過ごし方
  • 老いても新しいことに挑み、新しい考えを柔軟に取り入れること
  • 人と会い、社会に参加し、対話すること
  • サプリメントに頼らない、健康的な食事
  • 不倫でも浮気でもいいから恋愛すること
  • 美容整形やインプラントをすること

サプリを勧めないなど共感する点もあるが、過ごし方についての「考え方」をさらに掘り下げてほしかった。この手の老後系自己啓発本はもう読まないでいい、と思った。

ケアマネジャーはらはら日記

友人や親戚にケアマネや介護関連職がいるので、その苦労や詳細を知ろうと読んだ本。筆者本人によりとてもリアルに描かれていて、ご本人自身が注意欠陥・多動性障害(ADHD)を持つ特殊な環境で奮闘するという努力ぐましい日常が綴られている。いくつもの職場を転々とし苦労しながらもケアマネ職が好きだから、という一心で続けている満足感をすごく感じた。

走ることについて語るときに僕の語ること

高橋源一郎の飛ぶ教室 はじまりのことば

たまにテレビでも見かける小説家・高橋源一郎さんの短編コラム集。いろんな見識が詰まってて、たくさんの本をよんでいるような感覚になり面白かった。本来は「飛ぶ教室」を読もうと検索していてこの本がヒットして読んだのがきっかけ。

夢を叶える象

2009年頃の発刊から今日まで公称累計400万部も売れているというベストセラーで、若者向けの自己啓発本。15年前の本なのでガラケーが使われているなど古い箇所があるが、楽しく読める。一方、ウケ狙いの表現がやたら多いので、内容だけ知りたい人にとっては文章が長すぎてたまらない。本題だけ紹介したら箇条書き数ページに済む。象の姿をした「ガネーシャ」と名乗る神様の個性が、ダウンタウンの松本人志そのもので、その言葉遣いが笑える、ので彼が嫌いな人や自己啓発自体にアレルギーがある人には向かない本。要は「人に頼らず即自分自身で行動に移せ」という教え。

あした死ぬかもよ? 人生最後の日に笑って死ねる27の質問 

  1. 人生最後の日、なにに泣きたいほど後悔するだろう?
  2. あと何回桜を見られるだろう?
  3. どんな制限を自分にかけているだろうか?

といった27つの質問を答えながら自分らしく幸せに生きる秘訣が浮かび上がる本。

世界のニュースを日本人は何も知らない4

ベストセラー本という帯に釣られて読んだ本。著者はtwitterで有名な毒舌アカウントで、元国連職員で英国在住の「めいろま」さん。煽り調の切り口だが、この手の本にしては巻末に引用、参考本一覧なし。本人「感想」だけがブワーっと語られているので根拠があるかないか、判断するのはアナタ次第。

「後回し」にしない技術「すぐやる人」になる20の方法

前半は世界の偉人がいかに仕事を優先し即行動したかの実例で、後半はその実技を解く。なので前半で完璧な偉人の武勇伝にうんざりしてしまいそうになったら、後半から読んでもいいと。そしてその後半の実技篇はとてもハッとさせられる、いい方法が並べられているので要チェック。

人物

女帝・小池百合子(石井妙子)

学歴詐称疑惑が何度も取り沙汰される現東京都知事・小池百合子の出生から現在までを、親族や関係各所を取材して洗い出した分厚い研究書。特に学歴と関連するエジプトの章はとても興味深く、学歴が疑われる根拠が当時カイロで同居していた実際の証言者の言葉が本人の本名とともに証言されていて真実味が強い内容。

「カイロ大学を首席で卒業」は本当か、との東京都議会で質問され「教授から成績が優秀であると言われた記憶がある」と答弁している動画をネット検索すると見ることができる。「首席で卒業」が正しいかどうかは本人は直接の解答を避けており、ますます疑惑が深まる中、ついに元側近が学歴詐称に手を貸したとの暴露記事まで登場し万事休すか。

あの日:小保方晴子

「STAP細胞はあります」の言葉と共に表舞台から去ってしまった美人女性科学者。一体何があったのか、テレビは彼女のネガティブな面しかレポートせず、決して本人の反論を報じて両論併記しようとしなかった。それがずっと心残りのまま数年が経ち、いまこうして本人自らが真実を語る、という本。前半は、どのように彼女がこの業界に尽力しアメリカ留学とその後の研究にどう没頭したかが紹介され、専門的な話なのでわかる範囲で流し読みし、いよいよ後半は「あの日」に迫る。

騒動をまとめると次の通り

ざっと読んだ印象だが、本書が伝えている小保方氏のSTAP騒動までの成り行きは以下の通りだ。

  1. 小保方氏、幹細胞とスフィア細胞の度重なる研究でSTAP現象を発見。
  2. この論文を専門メディアや科学誌ネイチャーで発表する中で、古い研究の誤データや写真引用ミスを含んでしまう(が、この段階では問題にならず気づく人もいない)
  3. 共同研究者である和歌山大学・若山照彦教授がSTAP現象を基にキメラ細胞(胎盤を作れる万能細胞)の生成に成功か
  4. IPS細胞を超える発明であるとの報道がされはじめ、小保方氏と理研が注目を浴びる。
  5. 論文内の写真引用ミスが発覚しSNSで拡散。他にも不自然なデータを指摘され炎上。(小保方氏によると、これは旧データのまま公開してしまった単純ミスであり、実際は正しい更新データがあるし、実験も正しく制限できると主張)
  6. NHKスペシャルを含んだマスコミ報道が加熱し、小保方氏への人格攻撃、個人情報攻撃、自宅へのメディアスクラム被害を受ける。
  7. 理化学研究所CDBの笹井芳樹副センター長が自宅で自殺。
  8. 小保方氏、理研の退社とプロジェクトからの離脱を表明。
  9. 理研が調査委員会設置。「論文を元にSTAP細胞を再現できなかった」「小保方さんがIP細胞を混入させた疑い」を調査結果発表。(小保方氏はこの再現実験について、不十分な論文と実験データ、サンプルを基にした実験を行ったと本書で主張)
  10. 放送倫理委員会(BPO)が、「小保方氏がIP細胞を混入させた」との誤った情報、そして小保方氏への人権侵害があったとNHKスペシャル放送に対しBPO違反と判断。NHKは「人権侵害をするつもりはなかった」とコメント。
  11. 小保方氏、本書で共同研究者・若山教授が梯子を外し保身に走ったとの趣旨を本書で主張。
今後の小保方氏

本書を読みながらAppleTVのドラマ「レッスンケミストリー」を思い出した。女優ブリー・ラーソン扮する理化学研究の女性が、男性中心のラボでの出世がいかに難しいかとの内容だが、小保方氏が受けた負の力は男女格差というより、リケジョブームに乗っている彼女を利用した有象無象の集団と、小保方氏の単純ミスでの炎上で一気に保身に走る男たちの姿だろう。正確な再検証ができたはずだが、それさえできなくなり完全に梯子をはずされた本人が再び浮上するには、再び何かの研究で成果をあげるしかないだろうが理化学界で完全に信用を失ってしまった彼女はブリーラーソンの料理のように他業界にチャレンジするのかもしれない。そう。科学を使った料理研究家になってほしい。

マスコミの偽善

そして感じるのはマスコミの偽善だ。「裏金問題」「統一協会との連携」「ジャニーズ喜多川の児童を含んだ半世紀にわたる性虐待」「木原事件」「大河原加工機冤罪事件」「ダウンタウン松本と吉本芸人の女性上納システム」など、国家や検察、大手企業の大不祥事に対し、小保方晴子会見のような厳しい追及を記者たちはしただろうか。昨今、記者会見場で厳しい追及の声は東京新聞・望月記者以外の記者は、カタカタとキーボード音を鳴らすだけで終始無言の姿がテレビに映る。「悪」と決めた女性のマンションにはセキュリティーさえ破りドア前に迫る。この差はいったい何なのか。自民党安倍派議員を中心とした20年にもわたる裏金問題が問題となっているが、「秘書がやった」「会計担当がやった」「記憶にない」との答弁だけで終わるのに、小保方チームの1人が引用ミスをしたからと、チーム長の小保方氏が「部下がやった」と言って済んだだろうか。

マスコミの犬笛で湧き上がる誹謗中傷

マスコミは彼女を悪と決めつけNHKはBPO違反までプライバシーを侵害したことで、一般大衆は「彼女を叩いても良いんだ」とのお墨付きを得て、さらに誹謗中傷はヒートアップした。もはや研究が正しかったどうかは問題になっておらず、彼女の個人攻撃に集中した。理研の笹井芳樹副センター長の自殺にまで至ってしまう。そしていつものように誰も責任をとらない。10年経っても検証番組さえなく、共同研究者・若山教授も忘れられてしまった。彼女がどうだったかではなく、STAP細胞はあったのか。そしてそれは万能細胞だったのか。キメラ細胞や万能細胞ではなかったとしても、化学にとってどんな一歩だったのか。そして小保方氏の成果とミスはなんだったのか、その答えを皆知りたがっている。だがしないだろう。検証なんてしてしまうとマスコミ本人が反省しなくてはならないからだ。

オードリー・タン 自由への手紙

あんぽん 孫正義伝

声が出るほど驚いた本。噂では聞いていたがこんなにのすごい家族と道のりだったとは思わなかった。SNSをみると孫正義のアンチはうじゃうじゃいるし、かつてアンテナ周波数割り当て不許可のニュースなど不自然な冷が話題となっていて、その背景にあったモヤモヤが一気に晴れた。巻末あとがきにある通り大河ドラマになるほどのコンテンツ量の多い国を超えた家族親族の実話が面白くてほぼ一気読み。小6時に書いた詩「君は泣いたことがあるかい」がほんと感動的。

TVで彼が紹介される時は決まって株で数億円の損害、決算がマイナス、〇〇を売却、といったネガティブな報道が目立つ。メディアのそうした塩対応やdocomoばかりが厚遇されるワケも。来年からまたdocomoをNTT内に戻される法案が出されて、携帯3社が猛反発してるニュースがこの年末流れているタイミングで読んだのもまた感情を掻き立てた。図らずも日本のモバイル事業、インターネット事業が世界から脱落してしまったのは「彼への敵対心」じゃないだろうか、と思ってしまうほど因果応報な話にもなる。携帯キャリアの中で唯一国会官僚の天下りを拒否しているのはソフトバンクだけであることははっきり申し上げておきたい。

悪名の棺 笹川良一伝 (幻冬舎文庫)

現在の「日本財団(日本船舶振興会)」の創設者であり、韓国のカルト団体・統一教会系右翼団体「国際勝共連合」の創設者であり、巣鴨刑務所に服役した太平洋戦争A級戦犯・笹川良一の自伝。「知恵で成功した者は知恵で溺れる」「脳と下半身の人格は別」といった名言?や、多数の愛人(次男であり現財団会長・笹川陽平の母もは銀座キャバレーのホステスさんで、お妾として長く認知していなかった)の愛し方。二号、三号を日本各地の別宅に置き、二重生活、三重生活をしたいたことが赤裸々に語られている。昭和の時代にテレビでお馴染みだったモーターボート協会のCM標語「世界は一家、人類皆兄弟」の元ネタが、彼が創設した「国粋大衆党」のスローガンであることなど、驚くべき事実が本人へのインタビューを中心に武勇伝として語られている。

タモリと戦後日本

無名の時代から、赤塚不二夫の家に居候してラジオ番組からテレビに徐々に進出していき、「笑っていいとも」の司会者になったころから過去の際どいネタを封印し、国民的タレントになっていく姿、その背景、家族関係などを明かしていく本。タモリは大好きなのでとても面白かったです。

歴史

テロルの昭和史

「3月事件」「5月事件」「226事件」「死のう団事件」などの大正、昭和にかけて国内のテロ事件を詳しく解説した書物。安倍晋三元首相銃殺を「テロ事件」という視点で丁寧に分析したニュースや報道が少なく、数年経った今、すでに人々の間で語られず忘れられていること自体に危険な空気を感じて、読み始めた。この本でも安倍首相銃殺事件と照らし合わせた解説がされていて、現在の空気にあわせた分析がされていて面白かった。

テロが起こる時代背景

大正、昭和時代、特に日中戦争のきっかけとなる「満州事変」直前の日本ではテロ事件が歴史上多く散発していた時代で、その方法は拳銃と日本刀、爆弾を使ったとても残忍なものだった。日本を覆っていた空気そのものがテロに対して甘く、テロを「義挙(正義のための行動)」として評価する大衆やマスコミから称賛がその背景にあった。
もし日本で、戦前のような「テロを義挙として称賛する大衆の空気」があったなら、安倍首相銃殺を契機にテロが再び頻発したのだろう。今そうなっていないことにホッとするのだが、ちょっとしたことでガラリと変わり得る。似たような空気が令和の今にも漂っている気がしてならない。

財閥がテロの標的であった時代

この書物で、主に戦前に頻発したテロ事件は財閥への批判、つまり財界と政治の癒着に反発した軍部(とそれに同調した民間)から起こされている。この構図は現代とかなり違う。安倍元首相殺害の実行犯は、母親が外国の某カルト団体に多額の献金が原因で家庭崩壊が起こってしまった家族の一員が、そのカルト団体との深い関係にあった元首相に恨みの矛先を向けた犯行であることは報道されている通り。過去のテロとだいぶ性質が違うが共通点も感じる。このもやもやをはっきりさせたい気持ちで本書を読んでいた。

過去と現在のテロの共通点

結論がすぐにでる問題ではないが、単純に思いつく共通点は「狂信的」ということだろうか。戦前のテロは実行犯側にそれがあり、現代のそれはテロを受けた側にそれがある、という点で反転した共通点なのだが。が、それよりも共通するものは、「テロを許す空気」だと感じる。現代でも「死ね」「殺せ」などの差別扇動デモ(いわゆるヘイトスピーチ)が度々開催され、ヘイトスピーチ禁止条例ができた今日でさえ行政は取り締まることさえせず報道されることもない。つまりヘイトを「許す空気」を許していることだ。「犬笛効果」という言葉がある。行動を起こすよう、その行動を連想させる言葉を広めたり繰り返すことだが、犬笛に頼り始めている「何か」を感じずにはいられない。

国際

【新版】中東戦争全史(山崎雅弘)

現在のパレスチナ問題が深刻なので、前に読んだ「なぜガザは戦場になるのか」に引き続き読んだ本で、こちらはパレスチナとイスラエルとその周辺国、そして世界中にに大きな影響が広がった中東戦争について知ろうと。「パレスチナ問題」と言われるのは、この地域がオスマン帝国の支配下に置かれていた遠い昔の時代に多くのアラブ人とキリスト教徒、それに一部のユダヤ教徒で構成されったパレスチナ人だったが、オスマン帝国から追われたものの、シオニスト運動(神話を根拠にこの地に住み移み建国しようとするユダヤ人たちの政治運動)を支持しこの地に移民してきた。しかしエジプト、ヨルダン、シリアなど周辺アラブ国から猛反発されるも4度にわたる中東戦争で確固たるものとなる。イスラエルがシオニスト運動でアメリカ、イギリス、フランスなど西洋諸国から(一時期は、たくさんのユダヤ人のいた旧ソ連からも)莫大な軍事支援を受けており(特に、WW2でナチスの迫害から逃れた多くのユダヤ人が移民したアメリカから強力な支援を受け)、イスラエルはアラブ諸国以上の軍事的優位性を持つにいたった。イスラエルはアメリカと西洋諸国との結束を強め、その影響力を背景にパレスチナへの「入植」(というが実質侵略だろう)を進める。この法的根拠は国連で交わされた平和的な入植であったが暴力的でその体をなしておらず、抗議するパレスチナを理由に武装と領土拡張を強め今に至っている。

4度の中東戦争の意味(⚠️間違いがあるので後に整理します!ただざっと書いただけ)
  1. 第一次中東戦争:イスラエルによるパレスチナ定住が決定的になった事で、周辺アラブ国の反発を招き勃発。イスラエルは軍事力で圧倒し、エジプトはシナイ半島を奪われてしまう。
  2. 第二次中東戦争:エジプトがスエズ運河の所有権主張に英国、フランス、イスラエルが反発し勃発。イスラエルが勝利するものの、シナイ半島はエジプトに戻る。
  3. 第三次中東戦争:80日間戦争と言われる戦争で、重要なモスクの「嘆きの壁」がヨルダンからパレスチナの手に渡る
  4. 第四次中東戦争:PLO武装勢力のテロ攻撃の報復にイスラエル軍が反撃のためヨルダンに拠点があった場所に侵攻するが逆に退敗させられてしまう。
用語解説
  • PLO:
  • ムスリム同胞団
  • ファハタ
  • インティファーダ
  • ガザと西岸
  • ハマス
  • ヒズボラ:レバノンの武装勢力で、国の正規軍とは別に組織され国民からの支持も厚い(米ミリシアのようなものか?)
  • ユダヤ教徒
  • アラブ人
  • オスロ合意

なぜガザは戦場になるのか – イスラエルとパレスチナ 攻防の裏側 (高橋 和夫)

SNSで今年ほど子供の遺体写真・動画を見た年はないだろう。東西問わず世界から怒りの渦が巻き起こっている。国際刑事裁判所はネタニヤフ大統領の国際指名手配を決定し世界から孤立した。パレスチナ建国から今日の虐殺まで。どんな歴史からこの様な戦争になってしまったのか。今日まで、国際法違反が長い間続いていたのに報道はなぜされなかったのか。今はどのように報じられているのか。本書で理解できる。
特に興味深いのは、イスラエル建国の歴史、パレスチナ入植までの経緯、周辺国、特にエジプトはイスラエルとパレスチナをどうみているのか、西側からテロ組織と言われているハマス、ヒズボラ、PLO、ムスリム同胞団などは結成までにはどんな経緯があったのか。遠く東アジアのわたしたちはこの問題をどう捉えればいいのか。日本や東アジアはどうか変わってきたのか。今後、イスラエルはパレスチナ難民を「自国」内での民族隔離を避けられずアパルトヘイト国家になってしてしまうのか。そんな、いろんな疑問点が一気に理解できた。池上彰のような西側ポジションだけの視点で書かれた本が多い中、この本は中立的で両者の言い分をじっくり紹介しているおかげで論点と問題点がとてもわかりやすい良書。

感染症の歴史学(飯島 渉)

新型コロナウイルスの世界的な蔓延を機会に、歴史上のパンデミックがどのように拡大し収束していったのかを知ろうと読んだ本。過去の事例を知ることで、今回の疫病にどのような教訓がありどのように考えればいいのか、国の対応の違いはなんだったのか。この本で専門家の視点で眺めることができた。特に気になったのは、新型ウイルスの蔓延は過去に何度もあり(将来にも必ず起こる)、ウイルスは自らを延命するために進化するごとに毒性を薄め人類と共存しようとする点(スペイン風邪やインフルエンザがそうであるように)、今回のパンデミックに対する日本政府の対応を記した公文書や資料がどんどん破棄されている危機感(資料保存の規定がないことを理由に破棄されている)とその姿勢への疑問が湧き上がった。アベノマスクが決定された経緯の情報公開請求も「黒塗り」だったことが知られており、政府の対応の不透明さが日本国内では際立っていた印象だ。

ウクライナ戦争をどう終わらせるか 「和平調停」の限界と可能性 (岩波新書・東 大作)

現在も続いているウクライナ戦争の発端と経緯について知ろうと読んだのだ本。勃発までの歴史、どうしてロシアが国境を超えて侵攻に至ったかのロシア視点の要因に全く触れられていないの点が不満であったが、おおよその経緯や終戦への妥協点が解説されている。2024年、ロシアの原子力潜水艦がアメリカフロリダ州の間近キューバに突然現れ驚きとともにニュースになっている現在進行形のことには当然触れられていない。今後この第二のキューバ危機がどのようになるのか、ロシア国内への攻撃がアメリカによって容認されてことでロシアが警告している東ヨーロッパへの戦場拡大の可能性が、第三次世界大戦につながる恐れがあると囁かれていて、とても心配だ。

この本が伝える終戦シナリオ
  • 2月ライン(ロシア侵攻前のウクライナ国境)までのロシア撤退
  • クリミア半島の一部など親露エリアのロシア編入
  • ウクライナNATO加入の白紙化

夜と霧(ヴィクトール・E・フランクル)

ナチス強制収容所に送られたある精神医学者の体験日誌。処刑されることを待つ地獄の環境下で人々はどんなことを考え、どう難所を乗り越え、精神をどのように維持し、あるいは自暴自棄になっていったかが克明に記されている。著者本人は、収容中に終戦を迎え処刑されずに済む。究極の環境でどのように人間がサバイバルし、死なないようにするにはどうすればよいかのこれらの教訓は現在にも活かすことができる。こういった施設を作り民族浄化と集団処刑をおこなっていたナチスに嫌悪感を抱くのは当然だが、人権を奪われた人間たちの精神が壊れ動物同然になってしまう様子がとても恐ろしく、法があってこそ人類は人間らしい文明を築けるのだと実感できる。訳者あとがきにあったが、主にユダヤ人が処刑されていたと認識されがちだが(当然多数だったのだろうが)、ユダヤ人以外の外国人、社会主義者、同性愛者、その他の異端的思想を持った人も多く収容されていた点が指摘され、初版以降「ユダヤ人」などの特定人種名は本書に本来明記されていなかった点が強調されていて、このことはとても重要だと感じた。

ユーゴスラヴィア現代史 新版 (岩波新書)

欧州とロシアの間に挟まれたバルカン半島の国々。ウクライナ戦争で注目が集まるウ周辺国と緊張の背景にあるNATOの影響力がどのような歴史の背景からこの地域に広がっていいったかを知ろうと読み始めた本。オスマン帝国時代から様々な紛争が続いていて、ロシアに近い欧州という地理的な特質、旧ソ連の下で元社会主義国だった国々がスターリン主義から距離を置き徐々に自主管理社会主義へと移行していくなかで、西洋と共産圏から板挟みになりながら、近代ではアメリカと国連監督下で紛争中の虐殺や空爆の戦後処理を行なっている。中世時代の章はよく掴めなかったが、現代の章に近づくにつれウクライナでのアゾフ大隊を彷彿とさせるテロ組織ウスタシャによる民族浄化や虐殺の過去や、国家間以外にも痛ましい民族的衝突に考えさせられる。当時ナチスドイツの民族絶滅政策に強く影響を受けた勢力がどういった過程で残虐になり得たかを知る参考になった。ニュースでは悪い印象を広がるムスリムだが、ユーゴの歴史では西側に位置し丁寧に扱われている点など、気づきや疑問点もありもう一度読んだり他書も参考にしなくては理解が深められなそう。

戦争は女の顔をしていない

ソ連兵に入隊し対独戦に参加した数多くの10代の女性兵のへの聞き取りで構成された伝記。テレビアニメ「機動戦士ガンダム」の物語で語られる村や小隊で起こる数多くの小話が紹介されていて、同アニメの元ネタになっているようにも感じられる。それほど市民にとって身近な出来事に読む人を惹きつけさせる内容。戦時に人間はどうなっていくのか。女性と男性がもつ戦争への感情の違い。死体や内臓に慣れていき感情と表情を失っていく人間たち。自分の体から溢れてしまった内臓を自分の手で元の腹に戻そうとする兵隊の姿。数々の現実が女性視点で語られていくが、これが日本語に翻訳されたのが2000年ほどでそれまでは外国語でしか読むことができなかったことに驚き。

検証:ナチスは「良いこと」もしたのか?

たびたびネットやSNSで拡散される「ナチスはいいこともした」といった類の言説。「いいことをした」ことで全てが免罪されるかのような言葉を歴史の専門家の視点から検証した良書。高速道路「アウトバーン」やインフラ整備、健康促進政策、環境対策、などの国策が、一見「良いこと」のように見えて、その良いことの主語が「ナチス」であること。ナチにとって良いことであり、それ以外、とりわけユダヤ人にとっては最悪の政策であったという背景を知ると、決して「良いこと」などと言えない最悪の政権、政策であった、という内容。特に、犯罪者、障がい者への安楽死や絶滅収容所などで虐殺した遺体をパウダー化し有機農法に使うなど、衝撃的なナチ政策が紹介され、その詳細についても参考書が丁寧に紹介されている。

ヒトラー :虚像の独裁者

今の世界情勢ととても似ている気がして不気味。大量虐殺や侵略戦争が起こらないよう市民はリテラシーを身につけ、他国やマスコミ新聞に頼らず自分の目で政治・言論を監視しなければならず、独裁者登場の予兆を決して逃してはならない。

国内

石橋湛山の65日

国会の超党派グループで研究会ができるほど注目されている政治家・石橋湛山の解説本。岸政権発足直前の石橋総理大臣の政治がざっと勉強できる。詳しい足跡は石橋湛山全集などの専門書があるらしい。真の保守政治家とはこういう人だったのだが、現在保守といえば親米、宗教右派、外国人排斥、のいわゆる「ネトウヨ」の代名詞になっている点でまったく変貌してしまった。しみじみそう実感できる内容。本書後半で、石橋湛山が病で総理を辞職したあとか、後任の岸信介に託した手紙の内容が実に興味深かった。同じ保守政権でもまったく違う、日本の時代の変わり目がここにあったのだと。

草の根ファシズム : 日本民衆の戦争体験

映画

呆れるほどつまらない作品は載せてません。

題名感想おすすめ度
工作韓国・金大中政権誕生前夜、政権交代を封じるため当時KCIAスパイが金正日書記接触を目指すハラハラの心理戦。実話に基づき韓国で多くの映画賞を受賞。面白かった。⭐️⭐️⭐️
キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン
西武戦線異常なしWW1時代、ドイツ庶民側から見た戦争の映画。プロパガンダに踊らされ意気揚々と入隊したが地獄のような戦場で人間らしさがどんどん失われていく姿、そして不条理な最後。⭐️⭐️
マイ・エレメントディズニーのCGアニメ。ディズニーらしく面白かったけど。ディズニー的すぎて物足らない。ターニングレッドが面白すぎて。⭐️⭐️⭐️
フローラとマックスバットマンやノーラン映画によく出演する気になる俳優ジョセフ・ゴードンや、ミッドサマーの男優ジャック・レイナーがダメ男役で出演するなど興味深いキャスティング。それよりもリアルな家族愛が描かれた内容がともていいし、映画内の自作PVやラストのライブ楽曲が割といいし耳に残るいい映画。⭐️⭐️⭐️
フェイブルマンズSスピルバーグの自伝映画。「君どう」のように、自作のハイライトシーンと似た構図がいくつもありファンにとっては嬉しい。話のキモは多感で感情豊かな母親と、寛容的すぎると感じてしまうほどの優しい父親。スピルバーグ映画によく登場する壊れた家族像のネタ元が自分の家族であったと感じる悲しい話。感受性豊かで芸術肌の破天荒な性格である母だが、叔父さんに忠告をうけたように、いつか主人公も「自分か、家族か」を選ぶ地獄の日が母のように来ることを予感。そんな主人公も成人しパニック発作が出始め、元々母親と共にASDだったのではと。⭐️⭐️⭐️⭐️
RRRインドらしいユーモアとアイデアと迫力と勢い、歴史と内容。長かったけど面白かった。⭐️⭐️⭐️
エブリシング・エブリウェア・オールアットワンス2022年度アカデミー賞を総なめにしたミシェール・ヨー主演映画。マルチバースで並行する別の自分のスキルを手にし、ブラックホール化した闇と戦う。⭐️⭐️⭐️
ヒューマン・ボイスいつも脇役ばかりでじっくり見られないティルダ・ウィンストンを30分ずっと凝視できる一人芝居。舞台セットが斬新で物語の主題と一致。⭐️⭐️⭐️
Barbie面白い。男性中心社会への皮肉たっぷりでバービーを打っているマテル社にもそれが向けられている。⭐️⭐️⭐️
Hungerタイの格差を背景にした料理対決映画。⭐️⭐️⭐️
君たちはどう生きるか宮崎駿が自分のために作ったような謎の多い自伝的アニメ。⭐️⭐️⭐️
エモーナLGBTQ+な主人公のファンタジーCGアニメ。もののけ姫や宮崎アニメの名シーンを思い出す場面がちらほら。最後は考えさせられて泣ける。⭐️⭐️⭐️⭐️
別れる決意今までのパクチャヌ映画のアクションエログロな作風と違い、静的で不気味な空気。自作もこの路線でいってほしい。⭐️⭐️
Turning RED中国系カナダ人女性監督のディズニーCGアニメ。思春期の女の子と推し活がテーマで時代に合いとても面白い。母の声は韓国系アメリカ人サンドラ・オー。邦題は「私ときどきレッサーパンダ」で、母役は木村佳乃。短編アニメ「BAO」も泣けておすすめ。⭐️⭐️⭐️⭐️
ローグワンギャレスエドワーズ監督なので観たがSW世界はSF古典のパクリが多く好みじゃないが、この映画はスピンオフなのにSW本編よりもよくできていた。⭐️
SOLOエリミア・クラークとウッディ・ハレルソンの出演以外はほとんど楽しみなし。内容もダメ。点なし
DUNEティモシーシャラメの顔ドアップが満載。古典SFを今風に描いていてとても面白い。SWのタトゥーインや宮崎駿の風の谷、メビウスなど多くのクリエイターに影響を及ぼした異世界の民俗風習や世界観がとても面白い。⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️
犬王小説の映画化で面白い。女王蜂のアブちゃんの歌声が素晴らしい。話もすごく面白い。日本のアニメ映画といえば、新海誠、細田守だが、この湯浅政明監督の作品も見たい。⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️
否定と肯定実際にあったアウシュビッツ歴史修正主義法廷を映画化したもの。⭐️⭐️⭐️
三島由紀夫vs東大全共闘当時の大学生のインテリぶりがよくわかる。社会をうごかそうとしている大学生たちの理論武装が難解な哲学にも及んでおり、現代の反知性的論説との明暗がはっきり浮かび上がる。
ドント・ルック・アップアリアナグランデがほぼ本人役として登場するなど、皮肉とユーモアが自分好み。ジェニファ・ローレンス、ディカプリオ、ケイト・ブランシェット、ティモシー・シャラメ、メリル・ストリープ、など豪華俳優で話も社会風刺たっぷりで面白い。監督は社会派映画を多く作っているアダム・マッケイ。⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️

ドラマ

主に、1シーズンみたものだけ載せています。

題名感想おすすめ度
レッスン・ケミストリーベストラセラー小説のドラマ化。女性科学者が料理番組の司会者になる話、女性人権が低かった時代に戦う主人公の姿に勇気づけられる内容。⭐️⭐️⭐️
Foundationアシモフ原作の古典SF。今風にアレンジされてて面白い。これについては専用の感想文ページがあるので、興味あるひとはどうぞ。⭐️⭐️⭐️
インベージョン俳優もセットもSFXも素晴らしいのに内容が。ながら見にはちょうどいいかも。⭐️
医師チャジョンスク二重生活の夫を持つ女医のはちゃめちゃ自立生活。笑えて泣けてジーンとくる、大人向け家族ドラマ。⭐️⭐️⭐️
The BOYS新自由主義的なヒーローたちの正体を暴こうと戦う普通の人間たちの勝ち目のないヒヤヒヤする戦いが見どころ。エログロ場面多いので小さいことは見ないこと。ep2後半からはマンネリ化し、ep3で脱落。⭐️⭐️⭐️
サンクチュアリ・聖域日本の相撲界のスポ根ドラマ。イケメン不在で芝居が生々しくて良い。⭐️⭐️⭐️
マンダロリアン(S1、S2)SW版子連れ狼。黒澤明や日本の時代劇を思い出すシーン多数。S2の最後、ルークの恐ろしさが初めてわかった。前編ジョンファブロー監督だが、一部epでデボラチョウが担当。⭐️⭐️
オビ・ワン帝国軍に活気があり、ジェダイお忍び時代はヒヤヒヤしてSWは一番面白い。監督は中国系アメリカ人デボラ・チョウ。⭐️⭐️
火花面白い。火花は映画もあり菅田将暉が主演しているが、このドラマ版の林遣都と波岡一喜の喋り合いがとてもジーンときて映画より面白いし最後切ない。⭐️⭐️⭐️⭐️

ドキュメンタリー

題名感想おすすめ度
ジェフリー・エプスタイン〜権力と背徳の億万長者米大統領、英国皇室とも深い親交のある億万長者が、わかっているだけで数十人もの少女強姦を繰り返し、恋人とともに女衒のような行為をしていたという衝撃の内部告発がコロナ直前の2019年にあったドキュメンタリー。今でも親交リストが裁判などで公開され論議となっているのも驚き。⭐️⭐️⭐️
ジミーサビル〜人気司会者の別の顔ジャニー喜多川、ダウンタウン松本人志を思い出すような事件。英国で70代から7歳程までの広い年齢層の男女を、長期にわたり強姦していたという衝撃のレポート。英国の超人気タレントであり司会者の犯人は、英国ダイアナ姫やサッチャー首相とも親交が深く「サー」の称号を皇室から授かっていたほどの人間国宝。⭐️⭐️⭐️
100まで生きる・ブルーゾーンと健康長寿の秘訣自然に近い生き方をするのが幸せと長寿の秘訣というレポートで沖縄にも取材している。⭐️⭐️⭐️
キムチの国キムチ食べたくなるしかない⭐️⭐️⭐️
スープの国スープ作りたくなるしかない⭐️⭐️⭐️
冷麺の国冷麺食べたくなるしかない⭐️⭐️⭐️
インフィティー無限を旅する無限とは円である。無限とはどこでも中心である。不思議な感覚。⭐️⭐️⭐️⭐️
ブラックホール

この記事を書いた人

mojigumi

「もじぐみ」の代表、コウです。
専門は企画・出版・編集・印刷、Webデザインと管理。最近はブログ、動画、3DCG、AR、LINEスタンプ等のコンテンツ配信にも力をいれ、自分自身もランニングアートでコンテンツ化に努めています。