AIの恋愛セラピー?。「her/世界でひとつの彼女」感想文

her/世界でひとつの彼女(字幕版)

「エターナルサンシャイン」っぽいものを期待してみる

マルコビッチの穴」「エターナルサンシャイン」「アダプテーション」など、先の読めない奇想天外なストーリー展開で有名な映画監督・スパイクジョーンズのSF映画。第86回(2013年)アカデミー脚本賞であることと、大好きな上記三作の大ファンである理由から公開当時から気になってはいたが、忙しくて全然見られず、Amazon Prime ビデオ「her/世界でひとつの彼女(字幕版)」が出たことを知り、仕事をしながらの鑑賞。普段は美男子マッチョを演じることが多いホアキン・フェニックスが、過去を引きずりふさぎ込んだ弱々しい主人公を演じるなど、相変わらずキャスティングが大胆。だが、同監督とコンビだったチャーリーカウフマンの脚本でないからか、あの奇想天外さはない

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カレン・オー等、心に染みる静かなBGMがとてもいい。

聞いてるとところどころForever Loveっぽいメロディーがあったりする。
従来の作風と違って、静かなBGMを背景にゆっくり展開する「LOST IN TRANSLATION」と作風が似てるな、と思ったら、それもそのはず。スパイクジョーンズ監督は「LOST IN TRANSLATION」の監督ソフィアコッポラと結婚しており、「LOST IN…」は離婚直後にコッポラ作品。

スカヨハを挟んで「LOST IN TRANSLATION」「her」まるで映画の文通

劇中のスカーレットヨハンソン(スカヨハは「her」のAIの声役でもある)はSコッポラの実体験を元にした主人公いわれており当時の交際相手スパイクジョーンズらしき恋人も登場。に対してジョーンズ側から、同じ主人公スカヨハの器用は偶然ではなさそうだ。「her」にもあるように、恋愛により影響しあい成長する、というテーマは、Sジョーンズ&Sコッポラ夫婦の日常と発見そのものであることを強く感じる内容でもあり、才能豊かなSコッポラを失ったSジョーンズの喪失感を表しているようで、長い時を超えて、まるで二人が映画で文通したかのようだ。

ロストイントランスレーションの予告編も貼っておきます。

恋愛を使ったAIセラピーなのか。人にオススメできない内容

みていて、赤裸々で恥ずかしい描写が多い。恋愛映画でありながら、カップル向けではない。どちらかというと、失恋した人や、離婚してしまった人、中年男性向け。だが、エターナルサンシャインを見た後に残る、同監督の映画どくとくの強い余韻はあるし、ミュージックビデオを多く手がけているだけあって、透明感ある画面に重なったBGMがまるでPVのようで綺麗。特に、遠くロスの夜景や雪山への旅行シーンは、静かなシーンでありながら退屈さを感じない。

オリビア・ワイルド
AIは主人公のために女性との出会いもコーディネート。これは今でいう出会い系サイトの未来像か。そのデートシーン(女優:オリビア・ワイルド)では、すごく意気投合するのに過去を引きずる主人公は大事なとこでで逃げ出す始末。

AIとの恋愛という荒唐無稽さにつきあうかどうか

本作の評価の分かれ目はずばりそれだろう。iPhoneの音声コンパニオン「Siri」に向かって「愛してる」「デートしよう」と訴えるとどうなるか、試しているなら知ってる。練られてはいるけが人工感たっぷりの無機質な返事だ。それが大人を超えるほどの知能をもつほど発達した時、AIの以前に世の中全体にさらに大胆な変化が既にあるはずだ、と映画を見ながら素に帰ってしまう。主人公が前妻と進めている離婚調停や、レストランの接客、PC自体だってそうだ。

そもそも、ユーザーに対して無害なOSとの恋愛なんて、願望が一方通行であるはずで、お互い尊重しあっている関係と言えなず、どっぷりはまれない違和感を感じる。それに対して、2016年の映画「エキスマキナ」は利己的な感情も描いてる点で、納得いく内容になっている。

主人公の悲観的な姿に寄り添うかどうか

  • 集合知であるAIでしか心を癒せないほど、主人公の傷は深い、と、同情的に見るべきか
  • 集合知であるAIでしか心を癒せないほど、主人公は自力で過去を克服できない、と引いてみてしまうか

見る人によって評価が分かれそう。
AIであるサマンサと「The Moon Song(カレン・オー)」を共に口ずさむ印象深いシーン。中盤ほのぼのとした心温まるシーン。

AIが人間を超え捨てられる「恋愛シンギュラリティー」

もうすでに、将棋やチェスでは人間を超えたとのニュースが配信されているが、「2045年問題」と言われ、AI能が人間の知能を超えると予言されている。最近ではGoogleの発表で、人間の落書きを綺麗なパス絵に清書してくれるプログラムまで現れた。まるで絵の予測変換だ。この先どうなってしまうのだろう。裁判や、総理大臣や大統領に代わってAIが世界の秩序を治めたほうが合理的である時代がくるのだろうか。果ては、スピルバーグの映画「A.I.」のように、生命の限界を超えた存在として、人類はおろか生命そのものをAIは引き継ぎ、有機体と無機質を融合した超生命体となるのか。そんなスケールの大きい夢のある映画を見た後で、AIと人間とのラブロマンス、ってのは真面目に見ることができない。Herを見てそんな違和感を感じる人多いんじゃないかな。

her/世界でひとつの彼女
AIは、まずはゲームから浸透しそう。今現在、単純なセリフのループで人工知能っぽい演出されてるから。

映画の結末をどう解釈するか(ネタバレ注意)

自分から見た、この映画のみどころを並べると

  • スカヨハのハスキー声がAIを感じさせずフィジカルさを出そうとしている点が面白い。見た目がどれほど人間らしく作れるようになったかは、テレビで紹介されているが、音声のなかの「不気味の谷」とうのも今後立ちはだかるんだろなと。
  • AIからみたら「愛」などなく、「ロボット三原則」の縛りの聞いたプログラムにすぎない、と思うのだが、この映画は「愛はある」ことを前提にしている点でスピルバーグ「A.I」と同じで唐突感がある。その前提に付き合うことに無理があるかないか、見る人による。
  • AIと触れ合うなら、あんな面倒なことをしなくてもVRで済むのでは?
  • 人間の先入観のないいろんな概念が客観的に見える、Aiからみた人間をもっとAIに語って欲しかったが、「寄生獣」のようになってしまうんだろか。
  • 人間の全てを理解し、癒せるのはAIなんだろうなと、AIセラピストのニーズ感。展開をみてると疑似恋愛ではないらしい。
  • AIとの別離はどのような状況になりうるのか(映画「2001年宇宙の旅」のHALのような暴走を連想するが、本作ではAI側がユーザーから旅立っており、旅立ち先の印象が「幼年期の終わり」の超オーバーロードのように抽象的、別次元的でありながら死後の世界を連想させドキっとする。というか旅立つAIは人間風に表現すると「死んだ」のかもしれない。ってことを暗示?)
  • AIに人格があるなら、同士が惹かれ合うことは当然ありえるが、これも「人間風」な表現で、ソーシャルグラフのように蜘蛛の糸でつながれたAIは影響し合うのが当然であり、集合知が最後にたどり着くのは、哲学や言語を超えた、非言語=スピリチャルな何か?。
  • 肉体を希求していたAIが、やがて音声、さらにそれを超えた存在(電子データ)としての潜在能力に気づき、追求していく点と、その先にある抽象的・宗教的な概念(アニメ「攻殻機動隊」の人形使い&素子の融合のような、電子生命体的「なにか」の誕生)のはじまりを期待する点
  • 離婚調停が終わった後も前妻に手紙を送ろうとするラストに救いがあるのかないのか。
  • OS1とiOSって似てるけどわざと?やっぱりSiriなのか。Siriにスカヨハボイス追加して。
  • OS1の起動画面にハッとする。1を真横から見るとドーナツ状の0であり、1を回転させると無限に見える。1はゴムのような紐の輪がらせん状に捻られてできており、1とゼロは次元増やすごとに風景を変える起動画面のモーショングラフィックは、前に読んだトポロジー本や「超ひも理論」を思い出し、AIが旅立った先を暗示させているのかな。
  • OST中の「Some Other」のメロディーが、X-Japanの「Forever Love」のサビと似てる。


エレガントな宇宙(超ひも理論)第3回 驚異の高次元空間

感想文まとめ

恋愛ドラマから終盤一気に理数系やスピ系なテーマが出てくる点、ハッとするんだけど、なんだか感情移入できない。でも、アカデミー脚本賞ってことは、あらゆる要素を詰め込んだ玄人向けの映画ということかな。それとも、この時期ちょうど音声UIを宣伝していたAppleのタイアップ映画なのだろかと勘ぐったり。つまり、期待した映画じゃなかったんだが、こんなに長文の感想文をつらつら打ち込んでいる。同時期に観賞した「エクスマキナ」は面白かったのに感想文を書く気はなぜかない。それがこの映画Herの不思議な点であり、心にひっかかり気になってしまう映画だということか。今後AIはこの時点まで発達したとき、おそらくこの映画が引き合いに出されるんだろうな。

スピルバーグ監督「A.I.」
スピルバーグ監督「A.I.」のワンシーン。人工知能が進んだ先は超生命体を描く。

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この記事を書いた人

mojigumi

「もじぐみ」の代表、コウです。
専門は企画・出版・編集・印刷、Webデザインと管理。最近はブログ、動画、3DCG、AR、LINEスタンプ等のコンテンツ配信にも力をいれ、自分自身もランニングアートでコンテンツ化に努めています。